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フィルハルモニ記

ドイツ文化・思想の人がオペラ・コンサートなどの感想を中心に書いているブログ

ヴェルディ『イル・トロヴァトーレ』 新国立劇場 2011年10月11日

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座席 4階1列30番

 

 今日新国で『イル・トロヴァトーレ』を観た。この作品は初めてで、去年12月の『トリスタンとイゾルデ』以来の新国だったこともあり、舞台・音楽と劇場の雰囲気を満喫して帰ってきた。 

 今日のこれでヴェルディの主要オペラはたいてい観てきたことになるが、これはあまり良いと思わない。中期三大傑作の一つと言われるようだが、『椿姫』、『リゴレット』に対して見劣りしてしまうな、という印象を受けて帰ってきた。アリアも重唱も聴きながら(歌手もたいして良くなかったせいもあってか)くどくてうんざりしてしまう。今日感じたものはワーグナーの場合とはまた違う。この制作の演出家が「感情の噴出」(プログラムp. 6)と評する通り、『イル・トロヴァトーレ』の音楽は人間感情を歌手、オーケストラをフルに使い思い切り表現しはする。しかし、それだけ。動きがない。何か起こったことに対して、裏切っただの愛してるだのを歌い上げるだけ。動きがなぜないかと言えば、一つには劇の展開がたいていト書きで場面の間に挿入されて、すでにある場面ができあがっているからではないか。たしかにもともと台本は批判されているようだ。ただ、ヴェルディの音楽も褒められたものではないと思う。少なくとも不自然な台本を補って余りある、などという所からは程遠い。というのも、劇全体の展開に関しては台本が悪いとして、売りであろう感情の表現に関しても動き、つまり人間の感情の移ろいといったものが希薄に感じられる。さっきまで深刻な暗い音楽だったかと思えばいきなり明るくなる。愛を叫び、相手が裏切ったと思えばひたすら罵る。文字通り「噴出」といったところ。あの『オテロ』と同一の作曲者とは思えない。『イル・トロヴァトーレ』は1853年、『オテロ』は1887年初演されたということで、後期にかけて一層円熟したということで納得できるだろうか。それともやはり原作が世界最高峰の劇作家シェイクスピアとなれば違うということか。そうしたことは置いておくとして、初めて『オテロ』を観た時、人間の嫉妬心の描写、その尋常ではないえぐり出し方に驚いた。強烈過ぎて繰り返し観たくないくらいだ。ちなみに、『リゴレット』を観た後には興奮冷めやまず次の日にはすぐにCDを買いに行ったが、『オテロ』のときはそうはならなかった。

 端的に感想を述べれば、『イル・トロヴァトーレ』には感情の噴出のインパクトはたしかにあるが、そこに取って付けたような感じがあるのは否めない、ということになるだろう。もっと簡単に言えば、ヴェルディらしさはあるが不自然。

 

 少し脱線するが、いろいろなオペラを観れば観るほど改めて凄いと思わされるのはやはりモーツァルトだ。モーツァルトのオペラの台本だって批判されたりもする。例えば『コジ・ファン・トゥッテ』、入れ替わった恋人に誘惑されるなんて云々。だが観ていてそんなことは思わない。モーツァルトのオペラでは心理描写は深く、感情の移ろいは繊細で、あるべきところにアリア・重唱があり、話が進むべきところはテンポ良く進む。一部のオペラではそれらがめちゃくちゃ。不自然にアリアが挿入され、不必要に長く、進んで欲しくても進まない。まあドニゼッティあたりになれば筋書きも演出も度外視で歌手だけ「聴き」に行くと割り切った鑑賞スタイルもあり得るが

 

 歌手について。急遽代役となったタマール・イヴェーリは高音がいかにも苦しそうで窮屈そうな印象ばかり受けた。歌手は上演ごとに同じ体調で臨めているとは限らないので他の日にどうだったかはわからないが、出演しているということは自分の歌唱ができるという判断がなされているわけだからこうした釈明は厳しく言えば当たらない。今日一番良かったのはどうだろう、伯爵役のヴィットリオ・ヴィテッリか。ちなみに、フェルランド役の妻屋秀和が健康上の理由で今日に限り歌唱なしで出演し、代役が舞台袖で歌唱するという措置が取られた。

 指揮者にはブーイングが出ていた。オケは特別良くはないが、まあこんなものだろ、というくらいの演奏ではあったのでよくわからなかった。まあ熱い気持ちもわからなくもないが、これでブーイングいちいち出してたら日本じゃ何も聴けないだろ、という感想。アンサンブルの緻密さ、緊張感の無さなどはたしかに気になった。

  

 そして今後の予定では次は『ルサルカ』。『サロメ』は何度も観たいようなオペラではないので行かずに『ルサルカ』。これはなかなか観る機会がないとあって発売初日にチケットを購入した。やっぱり、なんだかんだ言っても新国でオペラを観るのは良いものだ。

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