フィルハルモニ記

ドイツ文化・思想の人がオペラ・コンサートなどの感想を中心に書いているブログ

『イロアセル』 2011年11月4日 新国立劇場 小劇場

【美×劇】─滅びゆくものに託した美意識

『イロアセル』

作:倉持 裕

演出:鵜山 仁

主演:藤井 隆

新国立劇場 小劇場

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座席 1階C5列2番

 気付いたら明日までで今日駆け込みで行ってきた。残席は割とあったようでチケットは難なく買えた。あらすじを読んだ時からなんとなく面白そうだったので期待していた。

 皆が自分の言葉に独自の色を持っている島が舞台。そこでは「ハムスター」という色を検知する機械で誰が何を話しているかがお互いにわかるようになっている。そこに本土から囚人(藤井隆)がやってくる。彼と看守の言葉は無色。囚人の檻の周りでは島民の言葉も無色になる。この囚人のところへ皆が面会しにやってくる。ここでは自分の声も無色になるので皆本音を話し始める。そして囚人は島民たちが今まで抑え込んでいた本音を徐々に知ることになる。無色である囚人の言葉が次第にこの島で影響力を持つようになっていき・・・破滅へ向かって「色褪せる」。

 登場人物が面白い。冒頭に出てくるのが町長ネグロ(言葉の色:黒)と議員バイツ(薄い灰色)。色の薄いバイツの声はいつも町長の濃い黒にかき消されてしまう。次の場面では株式会社プルプラン社長ポルポリ(紫)とその下請け会社社長のグウ(茶色)が話しこんでいる。アズル(青)とライ(どんよりした灰色)は架空のスポーツ「カンチェラ」の選手。そしてナラ(赤)という前科があり島民に嫌われている女がいる。そこへ囚人と看守がやってくる。本土からやってきた二人の言葉は無色。看守はカンチェラが大好きでアズルのファン。

 観終わった後の感想は、「期待通り面白かった、が逆に言うとだいたい予想通りの展開で驚きには欠けたという印象を持った」といったところ。言葉をテーマにした劇で色を持ってきてなかなか上手く出来ていると思う。ただそう思うだけにもっと掘り下げられた、もしくはもっと緊張感があってもよいと思う。暗転が少し多いのがまず少し気になる。あと筋展開の密度をもっと濃くできるのでは。休憩を入れようと思えば入れられそうなこの劇を2時間10分休憩なしで上演すること自体が、全体の緊張感・密度の濃さを目指していることの一つの証であると思うが、そのわりにやや物足りない。

 終演後のカーテンコール直後ベンガル・藤井隆両氏が舞台上に残り挨拶とちょっとした雑談、明日が千秋楽ということもあり?、を展開。劇もなかなか良かったし気分良く家路に就く。次は『天守物語』を観に行こう。

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