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フィルハルモニ記

ドイツ文化・思想の人がオペラ・コンサートなどの感想を中心に書いているブログ

モーツァルト『コジ・ファン・トゥッテ』 2013年6月12日 新国立劇場

オペラ

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モーツァルト『コジ・ファン・トゥッテ』

2013年6月12日 新国立劇場
指揮:イヴ・アベル(Yves Abel)
演出:ダミアーノ・ミキエレット(Damiano Michieletto)
フィオルディリージ:ミア・パーション(Miah Persson)
ドラベッラ:ジェニファー・ホロウェイ(Jennifer Holloway)
デスピーナ:天羽明恵
フェルランド:パオロ・ファナーレ(Paolo Fanale)
グリエルモ:ドミニク・ケーニンガー(Dominik Köninger)
アルフォンゾ:マウリツィオ・ムラーロ(Maurizio Muraro)
東京フィルハーモニー交響楽団

座席 4階2列44番

 この『コジ・ファン・トゥッテ』は2010/11シーズンの新制作の再演である。この新制作の前のプロダクションを観て感動し、色彩豊かな舞台も好きだったので新制作になったときには行く気が起こらず結局観なかった。ただ、『コジ・ファン・トゥッテ』はモーツァルトの中で一番好きなオペラなのでうるさいことは言わず観てみようと思って行ってきた。再演ということもあってチケットもたくさん売れ残っていた。

 現代に置き換えられ、物語はキャンプ場で展開する。キャンピングカーなども出てくるがそれ程ごちゃごちゃせず、自然があり、色彩感のある舞台だった。前回のも今回のも色が鮮やかである。上に載せたチラシもカラフル。この『コジ・ファン・トゥッテ』というオペラは演出家の色彩感覚を刺激するのであろうか。確かに音楽が色彩感に富み美しい。立場のはっきりしている登場人物たち、恋人同士の女性2人、男性2人、それを取り巻く男女アルフォンゾとデスピーナという男女各3名ずつのきれいな対称をなすこの6名のみで進行するのではあるが/であるからこそ、随所に現れる各重唱では色彩感豊かな音色が聴かれる。独唱も美しい。それらを支えるオーケストラの美しさもため息が出るほどだ。第2幕のフィオルディリージの大アリアは、初めて聴いたときにはあまりの美しさに陶酔状態だった。そして初めて『コジ・ファン・トゥッテ』を観終わったとき、『フィガロの結婚』などどうでもいいと思った。なんと美しいオペラだろうか。特にこれほど多くの美しい重唱があるオペラは他にないと言っていい。美しいのはモーツァルトの筆が冴えていたとして、これ程多いのは均整のとれた登場人物の構成によるところが大きいのだろう。恋人男女2組と哲学者アルフォンゾと女中デスピーナの2+2+2=6人、男声3+女声3=6人という完璧な対称性。一見単純すぎるようにさえ見えるこのバランスの良さがさまざまな形の重唱を生んでいる。男性3人、女性3人の三重唱、恋人女性2人、恋人男性2人の二重唱、恋人各組男女の二重唱、アルフォンゾとデスピーナの二重唱、恋人両組男女の四重唱、アルフォンゾとデスピーナを含めた四重唱、五重唱と全員での六重唱。単に数字上対称的なだけでなく、6人の登場人物それぞれの役の強さが拮抗しているので、すなわち量の面でも質の面でも対称的なので、どの組み合わせでも各パートを存分に歌わせることができる。登場人物の構成にこれほどきれいな対称性があるのはめずらしい。モーツァルトの他の作品でもみられないし、例えば主役級の比重が極端に大きいヴェルディやワーグナーの作品を思い浮かべれば違いはより明らかだろう。

 そして今回の歌手が皆力量のあるおかげで非常に楽しむことができた。2006年にここで旧制作を観た時も例えばドラベッラが私の好きな歌手であるエレナ・ツィトコーワ、デスピーナが中嶋彰子で全体的にもとても良かった。今回も恋人たち4人がそれぞれ良かった。アルフォンゾとデスピーナは特別良いわけではなかったがまあまあ良かった。デスピーナは中嶋彰子を聴いているのでそれと比べると差があるが、比べてはかわいそうだろう。今回のフィオルディリージ役のミア・パーションは格別で、彼女の2幕の大アリアはさすがに聴きごたえがあった(このアリアの最後の部分で音程を上げて歌っていた)。恋人4人それぞれが良く、他2人も悪くなかったおかげで、肝心の重唱もそれぞれのパートがしっかり歌われて聴いていて楽しかった。

 それと、プログラムが非常に充実している。どの文章も資料考証や最新の研究に基づいた新しく鋭い視点を提供していて読みごたえがあり、演出家ダミアーノ・ミキエレットの「演出ノート」が陳腐なものに見えてくる。会場へ行ってプログラムを買っても、ぱらぱらめくって目を通すもののしっかり読むことは意外と少ないものだが、好きなオペラということもあって今回のは熟読してしまった。磯山雅「作品ノート」、岡田暁生「社会思想史の中のコジ―パートナー交換劇の系譜をめぐって」、森岡実穂「恋人たちの庭―『コジ・ファン・トゥッテ』における庭のイメージ」、松田聡「『コジ・ファン・トゥッテ』成立をめぐる謎」等非常に充実している。どれも良いが、一番ためになったのは最後に挙げた文章。ダ・ポンテによる『コジ・ファン・トゥッテ』の台本は、ウィーンの宮廷劇場(ブルク劇場)においてもともとはサリエリのために用意されたものだった。なるほど。

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