ワーグナー『ワルキューレ』 ウィーン国立歌劇場 ラトル指揮 2015年5月31日
Wiener Staatsoper
Richard Wagner
Die Walküre
Der Ring des Nibelungen
Erster Tag des Bühnenfestspiels
Simon Rattle | Dirigent
Sven-Eric Bechtolf | Regie
Rolf Glittenberg | Bühne
Marianne Glittenberg | Kostüme
fettFilm (Momme Hinrichs und Torge Möller) | Video
Christopher Ventris | Siegmund
Mikhail Petrenko | Hunding
Tomasz Konieczny | Wotan
Martina Serafin | Sieglinde
Evelyn Herlitzius | Brünnhilde
Michaela Schuster | Fricka
Ildikó Raimondi | Gerhilde
Hyuna Ko | Ortlinde
Stephanie Houtzeel | Waltraute
Carole Wilson | Schwertleite
Donna Ellen | Helmwige
Ulrike Helzel | Siegrune
Monika Bohinec | Grimgerde
Juliette Mars | Roßweiße
Premiere 2. Dezember 2007
23. Aufführung in dieser Inszenierung (Livestream)
座席 Balkon Halbmitte rechts Reihe 1 Platz 34
ウィーン国立歌劇場でラトル指揮による『ニーベルングの指環』(演出:ベヒトルフ)全4日上演が今シーズン2回あるうちの2周目、昨夜の序夜『ラインの黄金』に続いて第一日『ワルキューレ』。初演は2007年(指揮:フランツ・ヴェルザー=メスト)に、全4日上演は2009年にメスト指揮で、2011年にはティーレマン指揮で再び全4日上演が行われた(2011年のCD、Amazon→ Wagner: Ring, Thielemann, Wiener Staatsoper、HMV→ 『ニーベルングの指環』全曲 ティーレマン&ウィーン国立歌劇場(2011)(14CD+2DVD))。『ワルキューレ』は今日でこの演出での23回目の上演とのこと。
今日の席は、少し体を起こせばオーケストラピットも見えたが、オケや指揮者を見ていると舞台上の動きを見逃すので、気になるところを除き今日はあえてピットが見えないよう深く座って舞台上に集中した。
(休憩中。手前にあるのは字幕(独/英)表示装置)
(中央の白い線は本のとじ部によるもの)
(Szenenbild aus der Premiere 2007, Programmheft 30f.)
歌手陣の充実ぶりが素晴らしい。圧巻は第1幕のジークリンデ役セラフィンとジークムント役のヴェントリス。オケの力強い響きとともに幕が閉じた瞬間拍手喝采。幕間のカーテンコールで2人に盛大な拍手と歓声が送られた。
ブリュンヒルデ役のヘルリツィウスは第2幕冒頭の„Hojotoho!“の高音が苦しそうで、音価を短くしてだましだまし歌っているのが明白だった。ここで(しょっぱなから)、聴衆の心証を悪くしたことは間違いない。だがその後は非常に力強い歌唱を聴かせ、全体としては良かったと思う。力強い反面、力んでいる感じがやや否めないのをマイナスと感じる人もいるだろうか。
ヴォータン役のコニエチュニーも昨日に引き続き良い。昨日よりさらに迫力を増していたようだった。その歌声がこちらの体にびりびり伝わってきた。比喩ではなく、実際に物理的に歌声の振動で顔がびりびりした。昨日も書いたが演技も含めて良い。槍を振り回すところも様になっている。
(http://www.wiener-staatsoper.at/Content.Node/home/spielplan/Spielplandetail.php?eventid=1263893)
(昨日と同様舞台は簡素。簡素な舞台美術、衣装で歌手にしっかり歌わせる演出と感じた)
オケは昨日よりさらに安定、充実していたか。昨日、重厚さに欠けると言う人もいると思うと言ったが、それは今日も同じ。ラトルが『ニーベルングの指環』をどのように指揮するか注目されていると思うが、昨日今日と聴いてラトルの指揮で特徴的なのは、劇を前へ前へ進めていく推進力。動機そのものに引っ張られることはなく、ここの動機をこうしてあの動機をああしてという小細工をする気はないようだ。例えば、第3幕でブリュンヒルデがジークリンデに宿る子にジークフリートの名を与え、それに対しジークリンデが感謝を歌う場面でもどんどん進めていく。ここで初めて出てくるジークフリートの動機と愛と救済の動機を、テンポを落として強調するようなことはしない。では淡々と進めていくのかといえばそうでもない。淡々とではなくどんどん進めていく。それは時にあっさりしすぎていると感じられるかもしれない。さすがにこの場面に関しては少し急いでいるように聴こえたと言えば聴こえた。この印象的な場面ですら推進力を弱めない。緊張感が切れずに物語が進んでいく。(ただ、第2幕前奏曲冒頭のアウフタクトを非常に強調し、そこで出てくる兄妹愛の動機はテンポを少し落として粘り気味に聴かせていたのは(他であまりしていなかったのでなおさら)目立っていた)
(http://www.wiener-staatsoper.at/Content.Node/home/spielplan/Spielplandetail.php?eventid=1263893)
最後の音が鳴りやむと同時に客席から大きなブーが響いた。オーケストラ、いや指揮者ラトルに向けられたものだった。カーテンコールでラトルが出てくると、大きなブーが叫ばれた。ひとりではなく何人か叫んでいた、それも何度も。だがそれをかき消そうとするように圧倒的に多くの聴衆がブラヴォーと叫ぶ。少しの間このブーとブラヴォーの応酬が続いた。結局昨日とは違ってラトルは単独ではこの一回しか出てこなかった。
一番拍手と歓声が大きかったのはジークリンデ役のセラフィンと、ヴォータン役のコニエチュニー(ヴェントリスは出てこなかった)。ブリュンヒルデ役のヘルリツィウスは総合的には良かったと思うが、(第2幕冒頭で高音をだましだまし歌った部分で心証を悪くしたのが響いたか)拍手は前者2名よりはややトーンダウン。
演出、舞台、歌手、オケ、指揮者、これだけ充実した約4時間もの上演を観ればそれは当然満足と言うもの。総合的にきわめて水準の高い上演だった。
〈『ラインの黄金』|『ワルキューレ』|『ジークフリート』|『神々の黄昏』〉