フィルハルモニ記

ドイツ文化・思想の人がオペラ・コンサートなどの感想を中心に書いているブログ

音楽家の著作―アーノンクールとティーレマン

 5月に音楽関連の本を2冊買った。音楽関連の本を買うのもかなり久しぶりだし、記事を書くのも久しぶり。かつてゲーテの音楽思想に関する本を買って少しずつ紹介しようと思って、何回か記事を書いたがそのうちやらなくなった。それ以来。さらに音楽家の本となるとさらにさかのぼる。 

 今回買った2冊の音楽家の本。ひとつはアーノンクールの „Musik als Klangrede. Wege zu einem neuen Musikverstäntnis“(『音の話法としての音楽―新しい音楽理解への道』)*1、もうひとつはティーレマンの „Mein Leben mit Wagner“(『ワーグナーと私』)*2。6月は読む時間がなかったので今月に入るまで読むのを我慢していたが、今週になってとりあえずざっと読んだので、面白いと思ったことを紹介したり、感想を書いたりしていきたい。

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*1 Nikolaus Harnoncourt: Musik als Klangrede. Wege zu einem neuen Musikverstäntnis, dtv und Bärenreiter, 1985 (zuerst 1982, Residenz-Verlag).
*2 Christian Thielemann: Mein Leben mit Wagner, Beck, 2012. 英語に移せば"My Life with Wagner"となる。邦訳は(まだ)出ていない。誰か日本語に訳しているのか。すぐさま出てもよさそうなものだが。


ニコラウス・アーノンクール『音の話法としての音楽―新しい音楽理解への道』

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そのような単に「美しい」だけの音楽など、かつて一度も存在したことはありませんでした。


 最初の版が刊行されたのは1982年なので30年以上も前に出たことになる。邦訳は1997年(『古楽とは何か―言語としての音楽』)。私が買ったのは1985年に出た版(写真)。 

 買ったきっかけは、5月10日に行ったコンツェントゥス・ムジクス/アーノンクールのベートーヴェン第4番・5番の演奏会。アーノンクールは舞台上に出てくると演奏を始める前によく「演説」をするのだが、その時の話が面白く、かつ演奏が素晴らしかった(「演説」の内容が見事に具現化されていた)ので、何か彼の本を読もうと思った。そこで、最初に出た有名な本を選んだ。 

 注文して本が届いた日に全体をざっと眺めて、最初の「私たちの生活における音楽」だけ読んだ時点で、この前アーノンクールが言っていたことは、ここ数十年ずっと言い続けてきて実践してきたことなのだとすぐに納得した。後記にも、この1954年に公表された彼の最初の論述は当時すでに設立されていたコンツェントゥス・ムジクスのいわば「クレド」(信条)であると書いてある。

 本は1954年から1980年の間の論文、講演録、講義録を集めたもので、3部に分けられている。

  1.音楽と解釈に関する基本的なこと(Grundsätzliches zur Musik und zur Interpretation)
  2.楽器と音の話法(Instrumentarium und Klangrede)
  3.ヨーロッパのバロック音楽からモーツァルトまで(Europäische Barockmusik – Mozart)

 今週、目に留まった面白そうなところをざっと読んだ。今後記事にして紹介していきたい。

Musik als Klangrede: Wege zu einem neuen Musikverstaendnis

Musik als Klangrede: Wege zu einem neuen Musikverstaendnis

 
古楽とは何か―言語としての音楽

古楽とは何か―言語としての音楽

 

 

クリスティアン・ティーレマン『ワーグナーと私』

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私の人生において何がまずはじめにあったのか、もはやわかりません。ワーグナーへの思いだったのか、指揮することへの思いだったのか。


 2012年に刊行されたティーレマンの本。第1章はいわゆる自伝、第2章、第3章はワーグナーについて語る。

 1.ワーグナーに至る道(Mein Weg zu Wagner)
 2.ワーグナーの世界(Wagners Kosmos)
 3.ワーグナーの音楽劇(Wagners Musikdrama)

 この本を買ったきっかけは、5月20日と21日に行ったシュターツカペレ・ドレスデン/ティーレマンの演奏会(→「シュターツカペレ・ドレスデン/ティーレマン/ギドン・クレーメル グバイドゥーリナ&ブルックナー ウィーン楽友協会 2015年5月20日」&「シュターツカペレ・ドレスデン/ティーレマン/ゲルハーヘル ワーグナー&シューベルト&ブルックナー ウィーン楽友協会 2015年5月21日」)。それぞれブルックナーの第9番と第4番がメインの(2日目の前半に少しワーグナーもあった)演奏会で、2日目に関する記事にコメントを書いてくださった方のブログを拝見し本の存在を知り購入した。役者が文章を朗読したオーディオブック(CD5枚)もあったので買ってみた(CDを流しておいて聴く方が楽だと思ったので)。 

 こちらも注文して到着した日にざっと全体を眺めて、その日に序文だけ読んだ。たった2頁だが、先を読みたくなるような面白い序文で、続きを読みたくなったが我慢して後で読むことにしておいた。そして今週、ざっと読んだ/聴いた。 

 第1章の話題は、どんな家庭に育ったか、どんな楽器を演奏してきたか、どんな音楽を聴いてきたか、どんな指揮者に出会ってきたか、など。ただし、(この本を買う人の多くの想像、期待にはおそらく反して)この自伝的な部分は全体の10分の1程度である。ここは単純で、読めば読んだだけ面白い。特にファンは楽しいだろう。第2章はワーグナーに関わる歴史を語る。ワーグナーのこと、バイロイトのこと、ワーグナー指揮者たちのこと。音楽、歴史、政治...。ワーグナーとメンデルスゾーン、ワーグナーとヒトラー、ナチス、バイロイト音楽祭の歴史、詳しいことを知っている人もいるだろうしあまり知らないで読む人もいるかもしれない。この第2章は、どちらかと言うと何が(=was)書いてあるかを単に追って読む第1章とは違って、ティーレマンが歴史をどのように(=wie)語っているかに注目して読むところと言える。第3章はワーグナー作品のティーレマンによる紹介。『妖精』、『恋愛禁制』、『リエンツィ』を含む。 

 ここでは今週ざっと読んで面白いと思ったことを以下にメモとして書いておくにとどめ、今後記事にして紹介していきたい。

メモ:

 子供のころから家庭には音楽があったこと。父は絶対音感を持っていて、受け継いだこと。小さい時から両親がベルリン・フィルの券を定期購入していたこと。最初は指揮者が不思議な笑える存在に見えていたこと。カラヤンに接した時に初めてそれが有機的でありうることを体験したこと。1985年のカラヤン指揮者コンクールで落選した時のこと(26人中21番目で、20分の持ち時間でいろいろ細かくやろうとし過ぎて課題曲『トリスタン』前奏曲の19か20小節くらいまでしかできなかった)、それでもカラヤンは自分の側だったこと、18歳でピアノで音大の演奏試験に合格すると同時にヴィオラ奏者としてベルリン・フィルのアカデミーに入ったこと。自分の才能はわりと早く見出されたこと。バイロイトのこと、指揮することに関してクナッパーツブッシュがひとつの大きな目標であること、ワーグナーには個人的には出会いたくないこと、言葉と音のこと、解釈のこと、上演のこと、等々...。往年の有名な指揮者の名前も多く出てくる。 

Mein Leben mit Wagner

Mein Leben mit Wagner

 

 

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*翻訳はすべて私による。


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ティーレマンつづき 

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