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フィルハルモニ記

ドイツ文化・思想の人がオペラ・コンサートなどの感想を中心に書いているブログ

バレエ『主題と変奏』/『新組曲』/『She was Black』 ゼンパーオーパー 2015年9月24日

バレエ

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『主題と変奏』
振付:ジョージ・バランシン
音楽:チャイコフスキー管弦楽組曲第3番ト長調より終楽章 初演1947年、ニュー・ヨーク

『新組曲』
振付:ウィリアム・フォーサイス
音楽:ヘンデル合奏協奏曲Op.6、バッハVn無伴奏パルティータ第1番、ベリオ2つのVnのためのデュエット集1 初演2012年、ドレスデン

『She was Black』
振付:マッツ・エク
音楽:グレツキ弦楽四重奏曲第2番「幻想曲風に」Op.64、伝統的なモンゴルの歌(トゥヴァの音楽) 初演1995年、ストックホルム


Thema und Variationen
Choreografie George Balanchine
Musik Pjotr I. Tschaikowsky
Bühnenbild Arne Walther
Kostüme Frauke Schernau
Licht Jan Seeger
Musikalische Leitung Benjamin Pope

Erste Solistin Alice Mariani
Erster Solist Jiří Bubeníček
4 Demi-Solistinnen Elena Karpuhina, Chiara Scarrone, Chantelle Kerr, Yuki Ogasawara
4 Demi-Solisten Joseph Hernandez, Julian Amir Lacey, Václav Lamparter, Claudio Cangialosi

Neue Suite
Choreografie, Bühnenbild & Licht William Forsythe
Musik Georg Friedrich Händel, Johann Sebastian Bach, Luciano Berio
Kostüme William Forsythe, Yumiko Takeshima
Musikalische Leitung Benjamin Pope

Händel 1. Pas de Deux Duosi Zhu, Jan Casier
Händel 2. Pas de Deux Chantelle Kerr, Claudio Cangialosi
Händel 3. Pas de Deux Kanako Fujimoto, Laurent Guilbaud
Berio 1. Pas de Deux Mónica Tardáguila, Julian Amir Lacey
Berio 2. Pas de Deux Courtney Richardson, Fabien Voranger
Berio 3. Pas de Deux Jenni Schäferhoff, Emanuele Corsini
Bach Sangeun Lee, Casey Ouzounis
Händel 4. Pas de Deux Zarina Stahnke, Francesco Pio Ricci

Sie war Schwarz
Choreografie Mats Ek
Musik Henryk M. Górecki
Bühnenbild & Kostüme Peder Freiij
Licht Ellen Ruge

1. Pas de Deux Svetlana Gileva, Christian Bauch
2. Pas de Deux Anna Merkulova, Johannes Schmidt
Spitzenschuhmann Clément Haenen
Die Schwarze Elena Vostrotina
2 Junge Männer István Simon, Skyler Maxey-Wert
Mann Francesco Pio Ricci
2 Frauen Jenny Laudadio, Raquél Martínez

Semperoper Ballett
Sächsische Staatskapelle Dresden

座席 2階左2列18番

 ドレスデン2回目の訪問で、ゼンパーオーパーでの初めての鑑賞(オケのシュターツカペレ・ドレスデンの演奏会であれば、この前の5月にティーレマン指揮ブルックナーの第9番と第4番をウィーン楽友協会で聴いた→)
 今日観るのはバレエ。午後にドレスデンについて、ホテルに行きフラウエン教会に寄ってから劇場へ。ドレスデン観光の様子についてはひとつ前の記事に書いた。(「ゼンパーオーパーの歴史」についても書いたので参照されたい)


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始まる前に劇場広場のカフェでゼンパーオーパーを眺めながら食事。会計後、歌劇場の真裏にある建物の演奏者出入り口(楽屋口)から入ってすぐの受付でチケットを受け取り劇場へ。頼んでおいてくれた友人に感謝。

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きれいなチケット。座席が不明だったが2階で良かった。オペラなら1階も良いが、バレエは少し上から観たい。

3人の振付師―バランシン、フォーサイス、エク

 今日のプログラムは、3人の振付師による3つの作品からなる。3人の振付師は、ジョージ・バランシン(George Balanchine, 1904年-1983年)、ウィリアム・フォーサイス(William Forsythe, 1949年-)、マッツ・エク(Mats Ek, 1945-)。バレエは詳しくないが3人ともこの分野で重要な人物。『白鳥の湖』1作品を3時間観るのも良いが、3つの作品を観るのも良い。音楽もバッハ、ヘンデルからチャイコフスキー、ベリオ、グレツキまでいろいろ聴ける。3人の振付師について、勉強ついでに、ここに簡単に紹介しておきたい。

ジョージ・バランシン(George Balanchine, 1904年-1983年)
「私は、音楽を聴くまで動くことはできないし、動くつもりもない。私はできれば根拠もなしに動きたくないのだ。その根拠とは音楽である」(ジョージ・バランシン、プログラム10頁)

 ジョージ・バランシンは20世紀のもっとも重要な振付師の一人で、アメリカン・バレエ(American Ballet)の創設者。9歳のときにサンクト・ペテルブルクのバレエ学校で学び始める。1921年に卒業すると、マリインスキー劇場バレエ団の団員となる。その後、セルゲイ・ディアギレフ(1872-1929)が主宰したバレエ団バレエ・リュス(Ballets Russes)にも加わ1929年まで所属した。その間ストラヴィンスキーのバレエ音楽に振付をした。1933年に渡米後、設立したアメリカン・バレエ団とMETで活動する一方で、再びストラヴィンスキーの音楽に振付をした。1946年にバレエ協会を設立、ここから後にニューヨーク・シティ・バレエ団が成立する。彼の活動、作品はクラシック・バレエとモダン・バレエの橋渡しをしたとされる。

ウィリアム・フォーサイス(William Forsythe, 1949年-)
「踊りとは生き物のようなものである。お前はそれを強いることはできない、お前はそれを自分の方に呼び寄せることはできない。お前は自分自身を知覚しながら作り上げなければならない。そうしてそれはやってくる」(ウィリアム・フォーサイス、プログラム30頁)

 ウィリアム・フォーサイスはニューヨーク出身のダンサー、振付師で、現代の先導的な振付師の一人とされる。彼の作品は、バレエを古典的なレパートリーから引き離し21世紀のダイナミックな芸術形式へ転換させたものとして知られている。1973年シュトゥットガルト・バレエ団に入団、そこで1976年に劇場振付師となる。1984年から20年間フランクフルトバレエ団のバレエ芸術監督を務める。同団が解消したのち、新しく独立したバレエ団、The Forsythe Companyを立ち上げ、主にドレスデン、フランクフルトで活動した。2015年9月にフォーサイスは芸術監督を退く(同団体は2015/16シーズンからは新たにDresden Frankfurt Dance Companyと名称を変え、ヤコポーゴダーニを芸術監督として迎え活動)。フォーサイスは2015年秋よりUniversity of Southern Californiaに新たに設立されたGlorya Kaufman School of Danceの教授として、その他パリオペラ座バレエ団でも振付師として活動する。

マッツ・エク(Mats Ek, 1945-)
「踊りの視覚的な美体験そのものは私にとって決して目的ではなかった。私の関心は社会的であり心理的であり、私のバレエにおける憤怒は往々にして強い。憤怒と憤激は重要な感情で、それがしばしば愛情の深い形にも等しくなる。そして愛情と機知の2つは、願望を伝達することが問題となるときには、並はずれて重要なものである」(マッツ・エク、プログラム43頁)

 マッツ・エクはスウェーデン出身のダンサー、振付師、演出家。父親は役者のアンデルス・エク、母親は振付師のビルギット・クルベリ。1965年にノルケピンのMarieborg国民学校で演劇学を学び始め、1966年から1973年までマリオネット劇場とストックホルムの王立劇場で活動する。1972年から古典舞踏のトレーニングを受ける。1973年には母の率いるクルベリ・バレエ団に加わった。1975/76シーズンにはデュッセルドルフのライン・ドイツ・オペラ(Deutsche Oper am Rhein)のバレエ団に所属、1980/81シーズンにはオランダ・ダンス劇場(Nederlands Dans Theater)で踊る。1976年に最初の振付をクルベリ・バレエ団のために創作する。1978年から母と共同で同バレエ団の芸術監督を務め、1985年から1993年まで単独で務めた。現在は特定の団体に所属せず活動している。

上演

『主題と変奏』 振付:バランシン チャイコフスキー管弦楽組曲第3番ト長調より終楽章
 音楽との重なり合いがきれいな、とても古典的な振付。解説を読むと、この作品はバランシンによるクラシック・バレエへのオマージュ、との言葉がある。一般に思い描くバレエ。背景も明るい。観ているうちにやはりオケの方により気が向く。このオケをこの劇場で聴くのは初めて。このオケのしなやかな響きは独特だ。劇場も、客席数は1300席ほどで、大きすぎないのが良い。

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座席から。劇場はこじんまりしていてとても聴き/観やすい。

 続く2作品、特に後者はバレエというより、コンテンポラリー・ダンスの範疇にある。

『新組曲』 振付:フォーサイス ヘンデル合奏協奏曲Op.6、バッハVn無伴奏パルティータ第1番、ベリオ2つのVnのためのデュエット集1
 この作品はパ・ド・ドゥの連続で構成されている。つまり、一曲(楽章)ごとに男女のペアが順番に出てきて踊る。「ヘンデル」は1995年の作品"Invisible Film"に由来し、4つ目のパ・ド・ドゥは今シーズン新たに創作された。「バッハ」は2000年に初演された作品から成る。「ベリオ」は1998年の"Workwhinwork"の第1部を基礎としている。
 暗い舞台で装置は無い。いたってシンプル。3番目に出てきたペアの女性Kanako Fujimotoが腕の動きがきれいだった。全編、2人のダンサーの身体的なインターアクション(相互作用という訳語では少しずれていて言い表せないような)が印象的で、それぞれの違いも面白かった。

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© Semperoper Dresden 「ヘンデル」

 この作品ではここのオケでバロック期の音楽が聴ける。それも嬉しいところ。一晩でいろいろな作曲家の音楽が聴けて、今日はこのプログラムで良かったと改めて思う。冒頭、オケがヘンデルの音楽を演奏した時の音の美しいこと。柔らかく光沢のある響き。ベリオ、バッハと続き、最後はヘンデルで終わる。おかげで後味が良く休憩へ。ここでヘンデル観たいな、確かゼンパーオーパー今シーズン2つくらいヘンデルのオペラやるよなぁと思いつついったん外へ。

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休憩中

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夜のカトリック旧宮廷教会とドレスデン城(Residenzschloss)。休憩中。


『She was Black』 振付:エク グレツキ弦楽四重奏曲第2番「幻想曲風に」Op.64、伝統的なモンゴルの歌(トゥヴァの音楽)
 オーケストラピットががらがらだと思ったらこれは録音での上演だった。え、弾いてくれよ、と思ったがまあいい。題名はベッペ・ウォルゲルス(Beppe Wolgers, 1928-)というスウェーデンの役者、作家、映画監督の言葉にある冗談から取られているという。»Ich habe von Gott geträumt letzte Nacht.« – »Und wie sah er aus?« – »Sie war schwarz.«(»I dreamed of God last night.« – »And what did he look like?« – »She was black.«)「神についての夢を見たんだ、昨日の夜」「それで、どういう風に見えた?」「(夜は)黒かったよ」*1。
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*1 Nacht夜は女性名詞。聴き手はer(he)を主語にして聞いているが、sie(she)で夜を受けて答えている。night(英)も女性。ちなみに月はドイツ語でder Mondと男性名詞だが、moon(英)は女性名詞として扱われる。シェイクスピアの『夏の夜の夢』の冒頭で、moonが次の文でsheで受けられそれが女性であることに意味がある個所があるが、ドイツ語では文法的にer(he)と受けなければならずうまく「翻訳」できない。英独見開きで載っているオレンジ色のレクラム文庫版ではその部分に注釈で解説を入れている。

 グレツキは弦楽四重奏曲第2番「ほとんど幻想曲ふうに」作品64を57歳の誕生日、1990年12月6日に作曲し始め、1991年3月19日に完成させた。曲はクロノス四重奏団に献呈されている。怒涛のように押し寄せる勢いの中に沈黙も多用される。
 暗い舞台、黒が基調で、中央付近にはテーブル、右奥には5段で途切れている階段、左には低い段がある。冒頭、男女のペアが少し離れた位置で腰を卑猥に動かし、引き寄せられるように近づきまた離れる動きで始まる。何人かのダンサーが出てきたり消えたり、終始慌ただしく展開していく。基本的にはペアでの動きが多い。グレツキの音楽に合わせ奇抜な動きを多用し、同じ(無意味にさえ見える)動きを執拗に反復する。後半になると全身黒に覆われたダンサーが地を這うようにして舞台上をゆっくり動きまわる。最後に起き上がり最前方でやや機械的な動きを見せる。幕がゆっくり下りるなかも舞台前方ぎりぎりのところで踊り続け、幕が下りきる直前にわずかな隙間から幕の裏へと消えて終演。見応えのある上演だった。

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© Semperoper Dresden


おわりに

 劇場は階段なども明るくきれいで、とても大きいわけではないが居心地が良い。劇場内も大きすぎず良い。各階列数が少なく、座った2階は2列しかないのも良い。Logeはボックス席になっていなくて良い。オケも良い。スタッフも感じが良い。ゼンパーオーパー、総合的にとても快適。帰り道に思ったこと:ウィーン国立歌劇場と取り替えてほしい...。

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