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フィルハルモニ記

ドイツ文化・思想の人がオペラ・コンサートなどの感想を中心に書いているブログ

トーンキュンストラー管弦楽団/ベアトリーチェ・ラーナ/佐渡裕 音楽監督就任演奏会 ウィーン楽友協会 2015年10月4日

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Tonkünstler-Orchester Niederösterreich
Yutaka Sado, Dirigent
Beatrice Rana, Klavier

Joseph Haydn
Symphonie D-Dur, Hob. I:6, „Le Matin”
Ludwig van Beethoven
Konzert für Klavier und Orchester Nr. 1 C-Dur, op. 15
(eine Zugabe)
-------- Pause ----------
Johannes Brahms
Symphonie Nr. 4 e-Moll, op. 98


10,8,4,2,6
12,10,6,5,8
14,12,8,6,10

座席 Galerie(3階)5列4番

 ウィーン近郊ザンクト・ペルテン(St. Pölten)に拠点を置くトーンキュンストラー管弦楽団の音楽監督に今シーズンから就任した佐渡裕。今日は音楽監督として初めての演奏会、就任演奏会(Antrittskonzert)。4回公演で、楽友協会で2回あるうちの2回目。佐渡は別に好きな指揮者というわけではないし行くつもりもなかったが、せっかくウィーンにいるので、このオケはまだ聴いたことがないし(チケットも安いし)やはり聴きに行こうと思い前日にチケットを取る。この機会を使ってGalerie(3階)の席を試す。
 このオケは初めてだが、佐渡はベルリンで一度聴いたことがある。
 この時もハイドンの交響曲第6番をやっていた。普段プログラムであまり目にしない曲だが、好きな曲なのか。ある指揮者を2回聴いたうちの2回ともハイドンの6番にあたるなんてなかなか稀なことで。その後、実演ではないがリアルタイムでベルリン・フィルに客演した時の演奏会をDCHで視聴した。


 ここでトーンキュンストラー管弦楽団の歴史を簡単に見ておこう。

トーンキュンストラー管弦楽団

 ドイツ語はTonkünstler Orchester。Ton(音)+Künstler(芸術家)。1907年に前身ウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団が設立され、最初の演奏会が1907年10月10日にウィーン楽友協会で行われた。1913年2月23日には、オペラ『はるかなる響き』("Der ferne Klang")などの作曲家フランツ・シュレーカーの指揮でシェーンベルク『グレの歌』の初演を行っている。1919年から1923年まで首席指揮者(Chefdirigent)をヴィルヘルム・フルトヴェングラーが務めた。その後客演指揮者として、ブルーノ・ワルター、オットー・クレンペラー、ハンス・クナッパーツブッシュ、ヘルマン・アーベントロートらが指揮台に立った。1932年にウィーン演奏協会(Wiener Concertverein)と合併、ウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団解消。度々の改称を経て、2002年に現在の名称となった。演奏旅行はこれまで、1979年にアメリカ演奏旅行、1985年に第1回日本演奏旅行、1992年第2回日本演奏旅行、1996年第3回日本演奏旅行を行っている。その他イギリス、ドイツ、スペイン、スロヴェニア、バルト3国への演奏旅行を行っている。ここ最近の歴代首席指揮者/音楽監督は1995年から2000年までファビオ・ルイージ、2000年から2003年カルロス・カルマー、2004年から2009年クリスティアン・ヤルヴィ、2009年から2015年までアンドレス・オロスコ・エストラーダが務め、2015年9月より佐渡裕が音楽監督を務める。2016年5月に日本への演奏旅行が予定されている。

演奏―新しい発見

 ハイドン交響曲第6番ニ長調「朝」。プログラムでもめったに見かけないが上記の通り、佐渡裕指揮/ベルリン・コンツェルトハウス・オーケストラの演奏会で聴いた。多分得意としているのだろう。自信があるのが見て取れる。ハイドンは古典派の巨匠と一括りにされるが、このへんの曲はヘンデルの合奏協奏曲風でバロックの響きである。ソロが多い曲。コンミスの弾きっぷりがなかなか良い。オケも全体になかなか軽やかで良かった(これ以上の軽やかさは無いものねだりに属するだろう。それはイル・ジャルディーノ・アルモニコなどの団体に任せるところ)。

 ベートーヴェンピアノ協奏曲第1番。今日のハイライトはここだろう。この曲はヘルベルト・シュフ(Herbert Schuch, 1979-)の独奏/準・メルクル指揮/ライプツィヒMDR交響楽団(ベルリン・コンツェルトハウス)と、シュターツカペレ・ベルリン/バレンボイム指揮&ピアノ(ベルリン・フィルハーモニー)で聴いたことがある。

 前日にチケットを買った際に目にした注記。
Maria João Pires mußte krankheitsbedingt ihre Teilnahme an dem Konzert absagen. Dankenswerterweise erklärte sich Beatrice Rana bereit, Beethovens 1. Klavierkonzert (an Stelle des ursprünglich geplanten Klavierkonzert KV 271 von Mozart) zu interpretieren.
 マリア・ジョアン・ピレシュでモーツァルトのピアノ協奏曲第9番のはずだったが体調不良でキャンセルでピアニストのみならず曲目も変更。キャンセルは初回練習の2日前のとのことで、プログラム冊子の中身の変更は間に合わなかったようでピレシュで作ってある(後ろの人たちがあのピアニストは誰、マリアはどうしたと言っているので事情を教えてあげた。マリアって呼んでるけど知り合い?とか思いつつ)。ピレシュはかなり前に池袋の芸劇でベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番を読響/カサドシュ指揮で聴いた。履歴表によれば2002年3月だからもう13年半前か。最前2列目で聴いたこと、音の輪郭をきれいに浮かび上がらせて弾くピアニストとの印象を持ったことを覚えている。今日も聴ければよかったが、結果的に彼女のキャンセルが思わぬ発見をもたらしてくれた。eine wunderbare Entdeckungだ。今日の演奏会、記事を書くとしたら誰もが十中八九「新しい発見」と書くだろう。
 代役はベアトリーチェ・ラーナBeatrice Rana, 1993-)。イタリア出身の現在まだ22歳のピアニスト。モントリオール国際コンクール優勝、クライバーン国際コンクール第2位に聴衆賞。この公演が彼女のウィーン楽友協会デビュー(正確にはこの連日の公演の初日10月1日の演奏会)。少し調べてみたら、ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2015に出演していた。今年の5月に聴いた人は聴いただろう。
 ちょうど2週間前にアルゲリッチのピアノで聴いた第2番よりも後に書かれ、第3番のようにベートーヴェン全開とまではいかずとも明らかに充実度を増しているピアノ協奏曲第1番。今日のラーナの演奏は、隅々まで素晴らしく感動した、というものではない。しかし小さくまとまらない演奏ぶりには驚くばかり。勇み足や粗は目立つが、大きな可能性を感じさせ、相当のポテンシャルがあるのは誰の耳にも明らかだった。第1楽章は快活で勢いがある。カデンツァも良かった。若手の場合たいていは、両端楽章は勢いがあってよかったが、緩徐楽章が...となりがちだが、今日一番驚いたのは第2楽章。22歳の若手ピアニスト、原石と表現することもできようが、原石とは言いたくないし不適当だろう。そう言うにはすでに立派で確かな輝きを放っていた。堂々としている。自分の間合いでしっかり弾いている。まるで楽譜に弾かされていない。第3楽章も生き生き弾いていた。ベートーヴェンだから、とかそういった固定観念・レッテルに引きずられない演奏で楽しませてくれた。アンコールを1曲弾いた。就任演奏会という佐渡が主役の演奏会で、そもそも代役でありながら、引き立て役どころか主役の一人となったベアトリーチェ・ラーナ。いずれ知ることになっていただろうが、ピレシュのキャンセルのおかげでより早く知ることができたこの巡り合わせ。来て良かった。
 別の発見はティンパニスト。あれは名手。上手い。センスがにじみ出ている。

 休憩。地元の人と思われる人たちも、素晴らしいピアニストね、まだ22歳だって、などと話している。皆がそう思っていたことだろう。

 ブラームス交響曲第4番。この曲はソウル・フィルのGP(オペラシティ)とベルリン・フィル/ビエロフラーヴェク指揮(ベルリン・フィルハーモニー)で聴いたことがある。
 表現の濃い演奏。冒頭、連続する音型の四分音符をかなり引っ張る。随所に大げさともとれる表現をみせるがこれはこれで好きだ。嘘くさくはない。真実味のある濃厚さ。良いオケだと思うが、ただ、超絶上手いわけではないので、ところどころ響きの造形が崩れる。あのティンパニストは別格感がある。

 座席。今日初めてGalerie(3階)に座った。はたから見ると、あんな席座るかよ、ってくらい遠く隔離された感じに見えるが一度は座ってみようと思い今日試した。思ったよりは遠くない。音は側面、天上にあたって響き混ざり合った音が届き悪くはない。2階正面やや後方に座ったときより良い気がする、がどうだろう。今度2階正面をもう一度試してみたい。どちらにせよ、悪くはないということで、積極的に座りたいところではない。
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iphoneで適当に撮ったので画質...。


 良いオケだった。超有名オケばかりに目が行きがちだが、このあたりのオケをゆっくり楽しめるのもヨーロッパにいて良いことのひとつだ。だいたい埋まっていた客席からはそれなりに好意的な拍手。次はソリストとしてなんとアルブレヒト・マイアーが来る。指揮はまた佐渡裕。題して"Sado dirigiert Strauss"。アルブレヒト・マイアー程の名手が来るのだから"Albrecht Mayer spielt Strauss"にした方が良いでしょとか思ったり。まあいいけど。
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Aboのパンフレット表紙もこんな感じで日本を前面に。今後も定期的に楽友協会の指揮台に立つことになる。


 日本人指揮者と言えば、こちらも2015年4月に新たに東京都交響楽団音楽監督に就任した(してくれた/してくれてしまった)ばかりの大野和士が11月に同楽団と創立50周年記念事業としてヨーロッパツアーを行う。ストックホルム・コンサートホール、アムステルダム・コンセルトヘボウ、ルクセンブルク・フィルハーモニー、ベルリン・フィルハーモニー、エッセン・フィルハーモニー、そして最終公演はウィーン・コンツェルトハウス。メスト指揮/ウィーン・フィル(楽友協会)とかぶっているがそれを前日の公演にずらして、多分行く。

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