フィルハルモニ記

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ベルリン・フィル/ラトル ベートーヴェン交響曲ツィクルス 第8番&第6番「田園」 ウィーン楽友協会 2015年11月12日

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Berliner Philharmoniker
Simon Rattle, Dirigent

Ludwig van Beethoven
Symphonie Nr. 8 F-Dur, op. 93
-------- Pause ----------
Ludwig van Beethoven
Symphonie Nr. 6 F-Dur, op. 68, „Sinfonia pastorale“


Cb5
座席 Balkonloge rechts 6 3 2

 ベルリン・フィル/ラトルによるベートーヴェン交響曲ツィクルスの今日は3日目、第8番&第6番「田園」。

 ベルリン・フィルは10月にまずベルリン・フィルハーモニーで2回ツィクルス公演をして、その後フランクフルトで第9番のみ演奏し、先週はパリでツィクルス公演を行った。そして今週はウィーンである。ウィーンの後はニューヨークのカーネギーホールでツィクルスを行う。2016年5月には台北で第1番&第9番と第2番&第9番の2公演を行った後、東京・サントリーホールでツィクルスを行う(2016年5月11日~15日)。言い方を変えると(来シーズン以降は知らないが)、ベルリン・フィル/ラトルのベートーヴェン交響曲ツィクルスを聴けるのは本拠地ベルリン、パリ、ウィーン、ニューヨーク、東京の聴衆だけだ。
 このツィクルス公演を迎える前に、ラトルの指揮に限らずベルリン・フィルでベートーヴェンの交響曲を聴いたことがないと思いこれまで行ったベルリン・フィルの演奏会を鑑賞履歴表で振り返ってみるとやはりベートーヴェンの交響曲はない。ベルリン・フィルとラトルによるベートーヴェン交響曲全曲をここにきて聴くことができるとは何とも良い巡り合わせ。

 今日は初めてアルブレヒト・マイアーが登場。フルートは今日もパユ。クラリネットは初日と同じくオッテンザーマー。コンマスはここ3日間日替わりで、樫本大進、スタブラヴァ、ノア・ベンディックス=バルグリー。

 第8番、とても良かった。演奏スタイルはこの3日の中で一番オーソドックスな演奏だったと言える。明るく力強い演奏で、この曲の魅力を見事に描き出していた。ゼーガースのティンパニは冒頭の一発以外ほぼ完ぺきと言いたいほどの素晴らしい演奏。かなりタイトに叩くヴェルツェルと違い独特の柔軟な間合いを持っているゼーガースのティンパニは時に、例えば初日の第1番、少しゆるく聴こえることもあるが、今日の演奏は見事と言うほかない。心の中でブラヴォーを送った。今日の第8番、全体に充実していて、昨日も書いた出来の良さという点でとても良い演奏。斬新さはあまりないが圧倒的な上手さで威力十分、充実の演奏。

 第6番「田園」。どんな演奏が聴けるかと期待していたが、第1楽章はあまり良いとは思わなかった。* テンポは遅くはないが、ものすごい勢いでもない。鳴らし方も抑制気味に感じた。提示部から全体の微妙なずれ、ぐらつき具合がやや気になる。聴き終わっても何か物足りなさが残る。正直何をしたいのかよく分からないような印象だったが、第2楽章からぐんと良くなっていった。第2楽章はこれだけ木管に役者が揃っていて良くないはずがない。柔らかく繊細な弦の響きをベースに、木管が多彩な音色で歌う様は圧巻だった。第3楽章でやっと思いっきり鳴らしてきた(第1楽章は明らかに抑制気味だったとここで改めて感じた)。第4楽章の壮絶な嵐を経て、第5楽章はやや冗長さを感じなくはなかったが濃密な音の響きはさすが。今日の田園交響曲は全体に、第1楽章から第5楽章に向かって盛り上がっていくようだった。響きのテンションが高まり、何か所かブルックナーの響きを聴いた気すらした。随所に聴かれたテンポの微妙な引き延ばしもベルリン・フィル/ラトルらしい。

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* 自分の中には、今日と反対にベルリン・フィルハーモニーで聴いたウィーン・フィル/マゼールの圧倒的な演奏の印象が強く残っている。マゼールの指揮のもとウィーン・フィルがベートーヴェンの「田園」を弦16型でここぞとばかりに思いっきり鳴らしてきた響きの凄さに圧倒された。ちなみに、今回のツィクルスでベルリン・フィルは第1番、2番だけ10型で第3番以降は12型(それぞれCb+1)で演奏している。DCHを覗くとベルリン・フィルハーモニーでも全く同じ編成で演奏していたので、かなり違った印象になることは間違いない。


【参考CD】 クラシック音楽ファンなら誰でも持っている(と思われる)2002年録音(楽友協会)のウィーン・フィル/ラトルのベートーヴェン交響曲全集。

Beethoven Symphonies

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初日、第1番&第3番「英雄」はこちら

2日目、第2番&第5番「運命」はこちら

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