フィルハルモニ記

ドイツ文化・思想の人がオペラ・コンサートなどの感想を中心に書いているブログ

フンパーディンク『ヘンゼルとグレーテル』 ウィーン国立歌劇場 2015年12月1日

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Hänsel und Gretel
Engelbert Humperdinck

Patrick Lange | Dirigent
Adrian Noble | Regie
Anthony Ward | Ausstattung
Jean Kalman | Licht
Denni Sayers | Choreographie
Andrzej Goulding | Video

Adrian Eröd | Peter Besenbinder
Janina Baechle | Gertrud
Margaret Plummer | Hänsel
Chen Reiss | Gretel
Michaela Schuster | Knusperhexe
Annika Gerhards | Sandmännchen
Annika Gerhards | Taumännchen


座席 立ち見1階

 1893年12月23日にR. シュトラウスの指揮でヴァイマールで初演された『ヘンゼルとグレーテル』は、翌年の1894年12月18日にウィーンで上演された(オーストリア初演はそのちょうど1週間前の12月11日にグラーツで)。今日のプログラム冊子を読むと、1954年までは定期的に上演されていたようだが、その後ウィーンでは、この作品を観たければフォルクスオーパーへ、という期間が続いていたという。そんな中でのウィーン国立歌劇場での『ヘンゼルとグレーテル』新制作。指揮者にはティーレマンを迎える。ティーレマン指揮ということでカレンダーに公演日を入れておいた。が、原稿の締め切り(と無計画さ)もあり行くのを一度はあきらめた。それでも周りの観てきた人のコメントを見てもう一度調べてみるとカレンダーになぜかチェックしていなかった残り2公演が12月今週にあって、あれ?まだあるじゃん、ということで行ってきた。雨ということもあってか、立ち見の列はかなり短い。楽々1階の券を買う。

 グレーテル役のイレアーナ・トンカは体調不良でキャンセル。まあ仕方ない。プログラムを買ってぱらぱらめくる。後ろのほうにティーレマンへのインタビューが6ページにわたって結構しっかり載っているのを読む。今いちいち訳している時間は無いが面白いので何か紹介したい。選ぶのに頭を使いたくないのでひとつ目にする。

『パルジファル』のスコアのコピストとして、そしてこの作品初演時のワーグナーの音楽アシスタントとしてフンパーディンクは、ワーグナー的な制作活動の内側を『パルジファル』を通して知りました。それは『ヘンゼルとグレーテル』にも読み取れますか?

クリスティアン・ティーレマン:響きの中に。はっきりとより強く私が聴きとるのは『マイスタージンガー』で、これは作品全体を通してふっと浮き上がってきます。そして興味深いことに『マイスタージンガー』と同様の問題が『ヘンゼルとグレーテル』にもあって、それは、オーケストラが強く作用しがち、ということです。その際このオペラは重厚には楽器編成されておらず、とても細々と演奏されるほかありません。これは『パルジファル』には当てはまらないことです。『パルジファル』は、普通のオペラハウスで上演するのか、バイロイトで上演するのかに関係なく、うるさすぎることはほとんどありません。―そこではワーグナーは声部とオーケストラとを理想的に作曲しましたが、他の作品ではデュナーミクにものすごく注意を払わなければなりません。『ヘンゼルとグレーテル』は『マイスタージンガー』のように、軽快さと痛烈なユーモア、つまりある種のゆるさをも必要とします。たとえ何が起きようとも、これが童話であることに変わりはない、ということを忘れてはなりませんね。そのことを考慮に入れることが肝要です。
Aus "Wie durch Neuschnee. Dirigent Christian Thielemann im Gespräch mit Oliver Láng", Programmheft S. 107.(訳は私による)

(このあと20個くらい質問が続く)

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Christian Thielemann © Matthias Creutziger

 読んでいるうちに開演時間。明かりが消え、拍手とともに指揮者登場。出てきたのは別の指揮者だった。ん?誰?ティーレマンじゃないの?一人唖然。指揮者はパトリック・ランゲ。ティーレマンはおとといの公演までだった。そうだ、だからカレンダーにも11月分の公演しか入れてなかったんだ。そんなことも忘れ、ぎりぎりまで、いや指揮者が出てくるまさにその瞬間までティーレマンが出てくるものだと思ってた自分が恥ずかしいわ笑 どうりで列もやたら短かったわけだ。建物から外にはみ出てすらなかったからなぁ。それも勝手に雨のせいだと理解(誤解)していた。雨で客足が、って違うわ。指揮者が違ったんだ。

 それでも美しい音楽と舞台を楽しみました。オケの演奏も今日はさすがに新制作ということもあってか良かった。充実。新制作プロダクションの指揮者としておとといの公演まで振っていたティーレマンの音楽作りも演奏の根底に感じられて。ちなみにパトリック・ランゲ、堅実な指揮で好感が持てた。

 それにしても登場するまで別の指揮者だと思ってたってなかなかだな。ティーレマンの指揮で聴けなかったぁ、っていうそういうショックはないけど、自分で自分に騙され、自分で自分が恥ずかしく、無駄に屈辱を受けてきたような変な気分。

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