フィルハルモニ記

ドイツ文化・思想の人がオペラ・コンサートなどの感想を中心に書いているブログ

ヤナーチェク『マクロプロスの秘事』 ヤクブ・フルシャ指揮 ウィーン国立歌劇場 2015年12月20日

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Véc Makropulos
Leoš Janáček

Jakub Hrůša | Dirigent
Peter Stein | Regie
Ferdinand Wögerbauer | Bühnenbild
Annamaria Heinreich | Kostüme
Joachim Barth | Licht
Cecile Kretschmar | Maske

Laura Aikin | Emilia Marty
Ludovit Ludha | Albert Gregor
Margarita Gritskova | Krista
Markus Marquardt | Jaroslav Prus
Carlos Osuna | Janek Prus
Wolfgang Bankl | Dr. Kolenaty
Heinz Zednik | Hauk-Sendorf
Thomas Ebenstein | Vítek
Marcus Pelz | Maschinist
Aura Twarowska | Aufräumerin
Ilseyar Khayrullova | Kammermädchen


立ち見 上左

 レオシュ・ヤナーチェク(Leoš Janáček, 1854-1928)の『マクロプロスの秘事』。ヤナーチェク8作目(終わりから2つ目)のオペラ。観たことがなく、観る機会も少ない作品。ペーター・シュタイン演出によるウィーン国立歌劇場の新制作。新制作どころか、なんとウィーン国立歌劇場における初演。

成立

 レオシュ・ヤナーチェク(Leoš Janáček, 1854-1928)は1922年12月10日、カレル・チャペック(Karel Čapek, 1890-1938)の戯曲『マクロプロスの秘事』をプラハで観る。1923年11月11日に作曲に取り掛かり、オペラは1926年に完成、同年12月18日にブルノ国民劇場で初演された。ウィーン初演は1938年2月5日、アン・デア・ウィーン劇場。ウィーン国立劇場では2015年12月13日が初めての上演。

日本での『マクロプーロス』上演

 日本での上演の歴史が気になったので少し調べてみた。

日本語訳日本初演:1995年4月中野ZERO大ホール、国立オペラカンパニー青いサカナ団
原語による日本初演(演奏会形式):2006年12月サントリーホール、東京交響楽団
原語による舞台上演:2008年11月日生劇場、二期会/新日本フィル

 二期会による2008年の上演が、原語のチェコ語かつ舞台上演による日本初演ということになる。それと、この作品に接する機会は日本ではまだこの3回だけか。

上演

あらすじに簡単に触れておく。
【第1幕】1922年のプラハ。コレナティー弁護士の事務所。依頼人アルベルト・グレゴルが現れる。曽祖父から100年も続く遺産相続の訴訟の決着がつこうとしていたが、グレゴルに不利に思われた。弁護士のコレナティーがオペラ歌手エミリア・マルティと一緒に現れる。なぜかマルティはこの訴訟の背景(グレゴル家とプルス家の確執)に詳しく、まだ知られていない遺言状が敵方のプルス家に隠されていると話す。弁護士コレナティーがプルス家に忍び込み遺言状を見つけ、訴訟相手のヤロスラフ・プルスを連れて戻って来る。エミリア・マルティはしかしそれよりも遺言書と共にあるギリシャ語の封書に興味を示している。グレゴルは謎の美女エミリア・マルティに惚れている。何でもすると申し出るグレゴルに、先祖代々受け継がれてきたギリシア語の封書が欲しいと言うが、グレゴルは持っていない。

【第2幕】終演後の歌劇場。舞台裏にエミリア・マルティの歌に感動した道具方や掃除婦。恋人同士のクリスタとプルスの息子ヤネク・プルス。エミリア・マルティはグレゴルの敵方のヤロスラフ・プルス男爵と会っている。そこへ老伯爵ハウクが現れる。ハウクは、エミリア・マルティは昔恋をしたジプシー女エウへニアに似ている、と言う。エミリア・マルティは自分の虜となっているヤネク・プルスを誘惑し、プルス家に保管されているギリシア語の封書を手に入れようとするが、父ヤロスラフ・プルスはこれを妨害する。エミリア・マルティは封書を手に入れるため、ヤロスラフ・プルスに一夜をともにすることを約束する。

【第3幕】ホテルの一室。封書を手に入れたエミリア・マルティ、後悔しているヤロスラフ・プルス。そこに、エミリア・マルティに恋していた息子のヤネクが自殺したとの知らせが届く。コレナティー弁護士、彼の秘書ヴィーテク、ヤロスラフ・プルス、グレゴルたちが現れ、正統な遺産相続人であることを証明する1836年の書類の筆跡がエミリア・マルティと同じことから偽造だと疑った。そしてエリナ・マクロプロスという女性と、E. M. というイニシャルを持つ複数の女性がからんでいることに気付く。エミリア・マルティはついに、自分がエリナ・マクロプロスであり、337年ものあいだ名前や国籍を変えながら生き続けてきたことを白状する(台本通りだが年数が合わない1575年→1922なら347年)。

 皇帝ルドルフ2世の侍医であった父親のヒエロニムス・マクロプロスは、寿命を延ばす秘薬作りを命じられ、16歳だった娘のエリナ・マクロプロスに試した。しかし、ルドルフ2世は、エリナが300年以上も生き続けるかどうかを誰も証明できないという理由でヒエロニムスを詐欺師として投獄。以来、父の秘薬の処方箋を持って生きつづけたエリナ・マクロプロス。エリアン・マック・グレゴルの名でヨゼフ・プルス男爵と出会い、私生児フェルディナンド・マック・グレゴルをもうけた。グレゴルはエリナの玄孫だった。
 長生きをしてきたエリナであったが、その寿命も尽きかけている。そこで、一時はヨゼフに預けてしまった秘薬の処方箋を取り戻すために子孫たちの前に現れたのだった。しかし、孤独に生き続ける虚しさから限りある命の価値を悟ったエリナは処方箋はもう必要ないと言う。クリスタは秘薬の処方箋を火にくべて燃やす。エリナが息を引き取る。

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第1幕 © Michael Pöhn


 序曲からヤナーチェク全開。正直チェコ語で聴くのは結構疲れる。字幕を必死に追う。しゃべる量が多いので大変。

 演出はかなり地味。照明の色に至るまでほぼ台本指示通りのようで。第3幕の舞台が今風な以外はこれと言ったところはなかった。第1幕の本がぎっしり置いてある部屋は、黒ずんだプラハの街を思わせた。

 3幕あって、それぞれだいたい同じくらいの時間だから休憩の置きどころに困る。今回は第1幕と第2幕を続けた後に休憩1回。これだと前後半のバランスが悪い。逆でもバランスが悪くなることに変わりはないし、休憩2回は多くて終演が遅くなるし...。

 指揮者。ヤクブ・フルシャの名前、大野和士/都響のウィーン公演に行く前に都響のウェブサイトを見ていた時に見かけたのを思い出した。ウィーン国立歌劇場の出演依頼のために都響の公演をキャンセルしたそうで。そこには演目等は載っていなかったが、なるほどこの公演だったのね。楽団創設50周年という節目の年に、首席客演指揮者でありながら定期公演と年末の第九をプログラムが決まった後に健康上の理由以外でキャンセルしてしかも他で指揮するという、フルシャの「マクロプロス事件」か。まあ、そりゃウィーン国立歌劇場で指揮したいでしょう。しかも、使い古されたレパートリー作品ではなくて新制作、それも同劇場初演の作品となればかなりのことだし。オケの演奏は良かったと思う。やはり新制作だからか真面目に演奏している印象を受けた。
 観客の反応もなかなか良かった。

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