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フィルハルモニ記

ドイツ文化・思想の人がオペラ・コンサートなどの感想を中心に書いているブログ

シュターツカペレ・ドレスデン/ブーフビンダー指揮&ピアノ モーツァルト&ウェーバー ウィーン楽友協会 2016年1月11日

演奏会

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Sächsische Staatskapelle Dresden
Rudolf Buchbinder, Leitung und Klavier

Wolfgang Amadeus Mozart
Konzert für Klavier und Orchester B-Dur, KV 595
(Kadenzen im 1. und 3. Satz von Wolfgang Amadeus Mozart)
Carl Maria von Weber
Konzertstück für Klavier und Orchester f-Moll, op. 79
-------- Pause ----------
Wolfgang Amadeus Mozart
Konzert für Klavier und Orchester C-Dur, KV 467
(Kadenzen im 1. und 3. Satz von Rudolf Buchbinder)


10/8/6/4/3
座席 2階rechts 6. Loge 2列5番

 シュターツカペレ・ドレスデン(SKD)とブーフビンダー(指揮&ピアノ)による全曲ピアノ協奏曲の演奏会。チェックしてなかったのだが、1週間ほど前に友人から教えてもらって行くことに。このところわりとこのオケを聴いている。

 大晦日もテレビをつけたらSilvesterkonzert(もちろんティーレマン指揮)の中継をやっていたので片手間で見ていた(出かける準備をしながらだったのでちらちら「見て」いた)。途中ガーシュウィンだかのジャズっぽい曲が流れていて画面に目をやるとティーレマンがリラックスして軽妙に指揮している姿が(笑)。その後に出かけた先でさっそく友人たちにその話をしたし、今日も演奏会について知らせてくれた友人に演奏会前に会って中継でその光景を見たことを話すと、「超似合わないよね(笑)」。それはさておき。

 今日の演奏会はブーフビンダーとのツアー2日目。昨日ドレスデン、今日ウィーン、明日からケルン、デュッセルドルフ、ミュンヘン、バーデン・バーデン、ベルリンで演奏するそうだ。今日の曲目はモーツァルトのピアノ協奏曲第27番変ロ長調、ウェーバー(1786-1826)の小協奏曲ヘ短調、後半にまたモーツァルトのピアノ協奏曲から第21番ハ長調。日によっては第20番ニ短調の組み合わせもあるとのこと。それにしてもひたすらピアノ協奏曲を演奏し続ける。ピアノ協奏曲ばかりな演奏会も面白い。2曲目のウェーバーは聴いたことないが前後のモーツァルトは好きな曲だし(第20番も聴きたかったが)、ブーフビンダーは聴いたことがなかったのでそれも楽しみ。今日は弦楽器が対向配置ではない、というのを数日前に訊いて奏者の友人が見える側に席を取った。座席に到着して辺りを見回して、あんまり客が入ってないなと思った。ちょうど同じ時間からコンツェルトハウスの方ではヒラリー・ハーンがソリストとして出るウィーン交響楽団の演奏会がある。こっちの客の入りに特に関係はないと思うが。

 ピアノ協奏曲を一度に3曲も聴いてとても楽しめた演奏会。先に今日の感想を一言で言うと、ブーフビンダーすげぇ。

 モーツァルトの第27番。あぁ、この第1楽章が切な過ぎて。この曲をこのSKD/ブーフビンダーで、楽友協会ホールで聴ける幸せ。9月のウィーン・フィル/エッシェンバッハ(楽友協会)の第23番イ長調も良かったけど、今日の演奏会も素晴らしい。SKDの弦の響きにはふわっと浮き上がるような柔らかさがありつつ芯がある。この曲には少し硬いかなとときどき思わなくはなかったが。ブーフビンダーは全体的にあまりオケに向かって指揮しない。1曲目から曲目自体と演奏にこんなに満足できるのはなかなか

 舞台袖からトランペット、ティンパニ、トロンボーン(1)、フルート2番が出てきてウェーバーの小協奏曲ヘ短調。まったく初めて聴く曲。1815年に構想し、6年後の1821年6月18日、『魔弾の射手』初演(ベルリン)の日に完成させたという。4つの部分を持つが切れ目のない単一の楽曲。始めのうちは、んーといった感じだったがだんだん面白くなる。いかにもウェーバー風の響きが随所に聴かれる。途中行進曲風になった所は笑えた。迫力も増していきピアノ独奏にも派手になっていく。ものすごい勢いで破綻せず弾ききるブーフビンダーに拍手喝采。面白い曲だった。今回のツアーではこの曲の代わりに第20番を含めたオール・モーツァルトの日もあるらしいが、この曲がある日で良かった。

 後でプログラムを読んで知ったが、この曲には物語がある。弟子の作曲家ユリウス・ベネディクトがウェーバーの説明を聞いて書き留めたものが伝わっている。当日のプログラムから紹介しよう。

城主の婦人がバルコニーに座っている。沈痛な面持ちで遠くを見やる。騎士は数年前からパレスチナにいる。彼女は彼と再会できるであろうか?多くの血にまみれた戦が行われた。彼からの便りはない、彼女にとって彼がすべてなのに。神への嘆願も、高き主への憧れもむなしく。ついに彼女は恐ろしい幻を見る。彼が戦場に横たわっている。味方に見捨てられ、傷口から心臓の血が流れながら。ああ、彼のそばにいることができたなら、せめて彼と一緒に死ぬことができたなら!彼女は意識無く疲れ切って倒れ込む。はっ!あの遠くで鳴っているのはなに?!あそこの森で太陽の光で輝くものはなに?だんだんと近づいてくるものはなに?威容ある騎士と従者たちが十字の印とともに。なびく旗、そして民衆の歓喜、あそこに、彼だわ!彼の胸に飛び込む。なんという愛のうねりであろうか。なんという果てのない筆舌に尽くしがたい幸せであろうか。喜びに満ちた風波がどんなにざわざわとたつことか。千の声が忠実な愛の勝利を宣言する。

当日のプログラム冊子の解説(Hartmut Krones)より引用。訳は私による。

 モーツァルトの第21番。第27番でもそうだったが、ああしたりこうしたりと変にもたついたりしないでどんどん前に進んでいく。推進力がある。とても自然に真っすぐにフレーズの終わりに向かっていく。その中に様々なニュアンスが込められている。第2楽章はゆったりとしたテンポ。オケもピアノも素晴らしい情感を醸し出す。第3楽章はテンポが極端に速いわけではないのだが疾走感がある。弾かされているところが微塵もなく、聴いていて小節を感じない。聴かせ方に工夫があり、でも人工的な不自然さはなく、説得力のある知的な演奏。カデンツァは第1楽章、第3楽章ともにブーフビンダー作。引き込まれた。とても冴えていて、かつ長すぎずにまとまっている。良い意味でカデンツァに聴こえない。曲の一部のよう。気づいたら自然にオケが入ってくる。

 演奏が終わると盛大な拍手。ブーフビンダーは何度も呼び戻された。アンコールがあると思っていたが、なかった。まあ、そうか。彼のピアノ、今日はもう十分聴いたわけだし。

 ブーフビンダー凄い。音楽家としての器の大きさが違うと思った。演奏に圧倒的な風格があり、巨匠と呼ぶにふさわしい。

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