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フィルハルモニ記

ドイツ文化・思想の人がオペラ・コンサートなどの感想を中心に書いているブログ

シュリーマン 『古代への情熱』

シュリーマン 『古代への情熱』

Heinrich Schliemann: "Selbstbiographie bis zu seinem Tode vervollständigt", 1892.

 前に岩波文庫版を買って読んでいたはずだが、昨日ブックオフでたまたま新潮文庫版を105円で見つけたので、そしてこの方が文字が読みやすいので買って帰り読んでみた。関心は主に彼の言語習得に関する記述にある。

 本書はハインリヒ・シュリーマン (Heinrich Schliemann, 1822-1890)の、ドイツ語原題にあるように、自伝である。ただし、厳密な意味での「自伝」は第1章のみ。関心のある記述はここに集中している。いくつもの言語を身に付けた彼がそれらをどのように習得していったのか、言語習得方法に関する記述をいくつか引用してみたい(ページ番号はすべて新潮文庫版)。

 彼は(おそらく)20歳になる頃にアムステルダムで英語の勉強に打ち込んだ。

「[...] 必要に迫られて、私はどんな言語でもその習得を著しく容易にする方法を編み出したのである。[...] 大きな声でたくさん音読すること、ちょっとしたことを翻訳すること、毎日一回は授業を受けること、興味のある対象について常に作文を書くこと、そしてそれを先生の指導で訂正すること、前の日に直した文章を暗記して、次回の授業で暗唱すること、である。」(p. 26)

 彼が言うには、子供のころは記憶力が弱かったらしいが、どんな短い時間でも惜しまず訓練した結果強くなったという。

「[...] しかし私は学習のためにどんな短い時間でも利用したし、時間を盗みさえしたほどだった。できるだけ速くよい発音を身につけるために、日曜日には定期的に二回、イギリス教会の礼拝式に行き、説教を聞きながらその一語一語を小さな声で真似てみた。使いに行くときはいつも、雨が降るときでも、手に本を持って行って、少しでもそれを暗記した。郵便局で待っているときにも、本を読まないことはなかった。」(p. 27)

 こうして記憶力を強化していったので、

「そして三ヵ月後にはもう、あらかじめ三回注意深く読んでおけば、毎日どの授業時間にでも先生のミスター・テイラーとミスター・トンプソンの前で、印刷した英語の散文二十ページを、やすやすと言葉どおりに暗唱できるまでになった。こういうやりかたで、私はゴールドスミスの『ウェークフィールドの牧師』とウォルター・スコットの『アイヴァンホー』を全部そらで覚えてしまったのである。」(p. 27)

「[...] 夜起きている時間はすべて、晩に読んだものを頭の中でもう一度くり返してみることに使った。記憶力は日中より夜のほうがはるかに集中しやすいから、私はこの夜の反復練習にもきわめて大きな効果を認めた。この方法はだれにでもおすすめしたい。」(p. 27)

 このようにして、彼は約半年間で英語の基礎知識をすっかり身につけたとのこと。この方法をフランス語にも用いてこれまた半年で習得した。その後、

「オランダ語、スペイン語、イタリア語、ポルトガル語の習得はきわめて容易となり、そのどれをも流暢に話したり書いたりできるようになるのに、六週間以上はかからなかった。」(pp. 27-28)

 あまりに凄いので逆にこっちのやる気がなくなってしまう程だが、少しでも近づきたいものだ。それにしても、ものすごい「言語への情熱」だ。それを示す記述がギリシア語習得の部分にもある。ちなみに彼がギリシャ語に取りかかったのは1856年1月とあるから34歳のときだった。

「語彙の習得はロシア語のときよりむずかしく思われたが、それを短時日で果たすために、私は『ポールとヴィルジニー』の現代ギリシア語訳を手に入れて、それを通読し、この際、一語一語を注意深くフランス語原文の同意語と対比した。この一回の通読で、この本に出てくる単語の少なくとも半分は覚え、それをもう一度くり返したのちには、ほとんど全部をものにした。しかも、辞書を引いて一分たりとも時間を無駄にするようなことはしなかったのである。」(p. 35, 下線は引用者)

 こうして現代ギリシア語もまた六週間で習得し、古典ギリシア語に取り組み、3ヵ月後にはホメロスなどを読むのに十分な知識を得たという。

「ギリシア語文法は格変化と規則助詞および不規則動詞だけを覚えた。一瞬たりとも、文法規則の勉強で貴重な時間をむだにはしなかったのである。」(p. 36, 下線は引用者)

 これは文法規則がすべて不必要と言っているわけではない。実際、格変化と規則助詞と不規則動詞はちゃんと覚えたと言っている。言語習得には核となる領域があって、それをきちんと押さえられるかがその言語をしっかり習得できるかどうかの分かれ道となる。特に不規則動詞をしっかり覚えることはどの言語を習得する時にも重要である。シュリーマンは、ギリシア語の場合にはそれは上記の3つだと考えたのだろう(続く個所で古典作品を暗記することも重要だと言っている)。上記下線部はそれにしても凄い発言だが…。

 よし、頑張ろう。

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