フィルハルモニ記

ドイツ文化・思想の人がオペラ・コンサートなどの感想を中心に書いているブログ

シュターツカペレ・ドレスデン/ティーレマン/ゲルハーヘル ワーグナー&シューベルト&ブルックナー ウィーン楽友協会 2015年5月21日

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Sächsische Staatskapelle Dresden

Christian Thielemann, Dirigent

Christian Gerhaher, Bariton

シュターツカペレ・ドレスデン

クリスティアン・ティーレマン

クリスティアン・ゲルハーヘル


Richard Wagner

„Blick' ich umher in diesem edlen Kreise“, Arie des Wolfram aus Tannhäuser

Franz Schubert

„Der Jäger ruhte hingegossen“ aus der Oper Alfonso und Estrella, D 732

Richard Wagner

„Was durftet doch der Flieder“, "Fliedermonolog" des Hans Sachs aus Die Meistersinger von Nürnberg

Franz Schubert

„Sei mir gegrüßt, o Sonne“ aus der Oper Alfonso und Estrella, D 732

Anton Bruckner

Symphonie Nr. 4 Es-Dur, „Romantische“ (Fassung 1878-1880)

8, 10, 12, 14, 16(並びはVn1, Vc, Va, Vn2, Cbは最後列)

座席 2階左3. Loge 3列2番

 昨日に続いてシュターツカペレ・ドレスデン/ティーレマンによるブルックナー。今日は第4番。前半に登場するゲルハーヘルは、最近では昨年10月のウィーン国立歌劇場の『タンホイザー』で観た。

 前半、ゲルハーヘルがワーグナー『タンホイザー』と『ニュルンベルクのマイスタージンガー』から1曲ずつ(「この高貴な集いを見回せば」、「にわとこのモノローグ」)と、シューベルト『アルフォンゾとエストレッラ』から2曲を交互に歌う。きれいに響き渡る発声と、明瞭で美しいドイツ語の発音。オケも深みのある響きを聴かせる。シュターツカペレ・ドレスデン、ティーレマン、ゲルハーヘルがホールを一瞬にして『タンホイザー』や『マイスタージンガー』の世界に変え、聴く者をそれぞれの世界に浸らせてくれる。夢のよう前半だった。ゲルハーヘルの歌唱が素晴らしかったし、『タンホイザー』を初演した伝統あるシュターツカペレ・ドレスデンとティーレマンのコンビによるワーグナーの演奏も、一味違うと感じさせる格別のものだった。

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(休憩中)

 ブルックナー第4番。昨日の第9番より演奏としてはこちらの方が良かったか。じっくり構えて演奏するところの響きの美しさは群を抜いている。ただ、盛り上がる部分で弦と管が分離したような一体感のない鳴り方になってしまうことがときどきあるのは気になるし、もったいないと感じる。それと、昨日も触れたが、全体にダイナミックレンジが大きい側に偏っている。もう少し、息をのむようなピアニッシモがあれば単調さが消えるのではと思うのだが。ティーレマンは特に奇を衒うようなことをせず淡々とじっくり進めていくだけに輪をかけて単調に感じてしまうことも。

 また、アーティキュレーションに関して、そんな音の切り方でいいの、そのタイミングでいいの、ちょっと処理が雑ではないの?と思う個所がときどき出てくる(特に管楽器)。そういう雑な音の処理を聴かされるとどうしても一音一音突き詰められている感じが伝わってこない。もっと細部まで考え抜かれ、しっかり積み上げられていくような演奏を期待したいのだが。昨日の第2楽章スケルツォのアンサンブルの乱れなどは、そうした部分が見事に露見してしまったということだと思う。

 期待が大きかっただけに気になった点ばかり書いたが、もちろんその辺の演奏会では聴くことのできないような美しい演奏だった。どの日本のオケからも聴くことのできない水準の演奏だろう。響きが違いすぎる。その響きをウィーン楽友協会で聴くことができるのは幸せだ。ただ、心の底から感動した、という気持ちにはならなかった。期待が大きかった分もあると思う。

 演奏後は今日もものすごい拍手と歓声に包まれ、団員が下がった後もティーレマンは何度も呼び戻されていた。

シュターツカペレ・ドレスデン/ティーレマンのブルックナーを2日続けて聴いて

 オケも指揮者も一流であることに間違いはないが、昨日今日と聴いて、ティーレマンのブルックナーは特別良いとは思わなかった。言い換えれば、このオケがブルックナーをやるにあたって、指揮者がティーレマンだから良い演奏になったかと言えば特にそうは言えないと思う。むしろ、プローベでもう少しチェックすべき個所あったよね、という感想。昨日と今日の演奏で良かった部分は、大きく言えばシュターツカペレ・ドレスデンというオケの良さに由来しているだけの話、と私は思う。例えば昨年ウィーン国立歌劇場で観たR. シュトラウスの『ナクソス島のアリアドネ』では、小編成のオケで隙のない充実した演奏を聴かせたティーレマンはさすがと思った。指揮者が「ティーレマンだったから良かった」と確信をもって言える演奏だった。それに比べると、「ティーレマンのブルックナーはどうだったか」と聞かれれば、悪くはなかったが特別良いとも思わなかったと言うしかない。なぜなら(繰り返しになるが)、シュターツカペレ・ドレスデンの演奏会としてはもちろんその辺の他のオケの演奏よりもはるかに良かったけれども、それが「ティーレマンだったから良かった」とは言えないと思うからだ。

 ティーレマンという名前に引きずられるのはここまでにしておこう。シュターツカペレ・ドレスデンがウィーンに来てくれて、昨日はクレーメルの弾くグバイドゥーリナとブルックナー第9番、今日はゲルハーヘルのワーグナーとシューベルト、そしてブルックナー第4番を聴くことができた。どちらも、前後半ともに充実したとても良い演奏会だった。特に、ベルリン・フィルからも聴かれない美しい響きは圧巻だった。

 先月から今月にかけて、期間としてはちょうど一か月の間にブルックナーの演奏会が続いた。

・第2番(ウィーン交響楽団/パーヴォ・ヤルヴィ)、

・第4番(ウィーン交響楽団/ティチアーティ)、

・今日の第4番(シュターツカペレ・ドレスデン/ティーレマン)、

・第7番(ベルリン・フィル/ラトル)、

・第9番(シュターツカペレ・ドレスデン/ティーレマン)

と聴くことができた楽しい期間だった。

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