フィルハルモニ記

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アーノンクール『音の話法としての音楽―新しい音楽理解への道』(1)読解への導入

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そのような単に「美しい」だけの音楽など、かつて一度も存在したことはありませんでした。

そうして誰もが、音楽の価値と演奏について判断し意見を述べることは正当でみずからにその資格があると感じてしまっているのです。

 最初の版が刊行されたのは1982年なので30年以上も前に出たことになる。邦訳は1997年(『古楽とは何か―言語としての音楽』)。私が買ったのは1985年に出た版(写真)*。
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* Nikolaus Harnoncourt: Musik als Klangrede. Wege zu einem neuen Musikverstäntnis, dtv und Bärenreiter, 1985 (zuerst 1982, Residenz-Verlag).


買ったきっかけは、コンツェントゥス・ムジクス/アーノンクールのベートーヴェン第4番・5番の演奏会

 この本を買ったきっかけは、2015年5月10日ウィーン楽友協会でのコンツェントゥス・ムジクス/アーノンクールのベートーヴェン第4番・5番の演奏会だった。アーノンクールは舞台上に出てくると演奏を始める前によく「演説」をするのだが、その時の話が面白く、かつ演奏が素晴らしかった(「演説」の内容が見事に具現化されていた)ので、何か彼の本を読もうと思った。そこで、最初に出た有名な本を選んだ。

 注文して本が届いた日に全体をざっと眺めて、最初の「私たちの生活における音楽」だけ読んだ時点で、この前アーノンクールが言っていたことは、ここ数十年ずっと言い続けてきて実践してきたことなのだとすぐに納得した。後記にも、この1954年に公表された彼の最初の論述は当時すでに設立されていたコンツェントゥス・ムジクスのいわば「クレド」(信条)であると書いてある。
 本は1954年から1980年の間の論文、講演録、講義録を集めたもので、3部に分けられている。

1.音楽と解釈に関する基本的なこと(Grundsätzliches zur Musik und zur Interpretation)

2.楽器と音の話法(Instrumentarium und Klangrede

3.ヨーロッパのバロック音楽からモーツァルトまで(Europäische Barockmusik – Mozart)

 ここでは、彼の数十年来の根本的な姿勢がうかがえる最初の論述(「私たちの生活における音楽」)の重要な部分を抜粋して読んでいきたい(2)。そして、アーノンクールが言う「私たち」には私たちは入っていないことを確認したうえで(3)、アーノンクールの論述を日本人と西洋音楽という視点から読みかえ/書き換えてみたい(4)。

(1)アーノンクール『音の話法としての音楽―新しい音楽理解への道』―読解への導入

(2)「私たちの生活における音楽」読解(抜粋)

(3)「私たちの生活における音楽」解題―「私たち」と私たち

(4)「私たち」の読みかえの試み―「私たち日本人の生活における西洋音楽」


((2)に続く)

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Musik als Klangrede: Wege zu einem neuen Musikverstaendnis

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古楽とは何か―言語としての音楽

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